前回の民法に引き続き、今回は刑法の問題を解く際の思考方法について触れたいと思います。
1 刑法の答案
刑法の答案で何を書くかといえば、ある人のある行為が刑法上どのように評価されるかということを論じるのです。即ち、何かしらの構成要件に該当するか、その行為に違法性はあるか、行為時にその人に責任能力があるかということを検討して、犯罪の成否を論じることです。
2 行為の特定
そうすると、まず、誰がいつどのようなことをしたかという行為者の行為を特定する必要があります。これは基本的には一つ一つの行為を特定することが必要で、大雑把に把握するだけでは不十分です。なぜなら、ある人のある「行為」について何らかの犯罪が成立するのかということを検討しなければならないのですから、「この行為」というように特定しなければ、「その行為」に対して刑法的な評価を加えたことになりません。
もっとも、時として、行為と行為を一連一体として捉えて論じる場面があることも事実です。しかし、だからといって、やたらめったら一連一体の行為として捉えるのではなく、まずは一つ一つの行為を特定し、その上で、一連一体のものと評価出来る場合に初めてそのような検討が許されるのですから、あくまでも、基本は一つの行為を特定するところから出発します。
3 結果の特定
行為を特定したならば、次に検討すべきは、その行為によって「どのような結果が発生したか」ということを特定しましょう。例えば、同じ行為でも人が死んだ場合と死んでいない場合とでは、検討する構成要件が異なるからです。また、因果関係の検討でも、行為と結果の特定は非常に重要です。
4 構成要件該当性
行為と結果を特定したならば、次にその行為が刑法上どの構成要件に該当するかについて検討しましょう。構成要件は客観的構成要件と主観的構成要件に分かれますが、まずは客観的構成要件(行為と結果の特定と、因果関係の有無)から検討しましょう。そして次に主観的構成要件(故意等)を検討するようにしましょう。
5 違法性阻却事由の有無
ある人の行為が刑法上の構成要件に該当するとしても、その行為が違法性を有しない場合には犯罪は成立しません。したがって、違法性阻却事由の有無(正当防衛等)を検討することが必要となります。
6 責任阻却事由の有無
違法性があるとしても、行為時にその人が責任能力がなければ、犯罪は成立しませんので、責任能力の有無を検討することが必要です。
7 処罰阻却事由の有無
責任まで認められたとしても、処罰阻却事由(親族間の窃盗等)があれば、処罰されませんので、この点も検討する必要があります。
8 共犯について
共犯事件の場合、ある人が実行行為を行っていなくとも、共犯として処罰されることになります。そして、共犯とは修正された構成要件と理解されていますので、共犯となるか否かは構成要件該当性のところで検討するのが良いと思います。
9 まとめ
以上のことを検討出来ていれば、恐らく検討漏れはありませんし、どこかで論点が登場してくると思います。ここで一点注意が必要なのは、思考方法としては2~7(共犯事件については2のところで共犯性を検討)のように検討することは間違いないのですが、それぞれをどこまで書くかということはまた別問題です。
何の問題もない点を検討するのは、筋が悪い答案と思われてしまいますので、犯罪が成立する上で何が問題となるかという点を明確にして、その点を厚く書き、その他の点は書いても書かなくてもどちらでも構いません。
例えば、因果関係が問題となっており、その点が犯罪成立のカギとなっている事例で、違法性や責任について厚く検討するのは、必要のない点を検討していることになりますので、点数になりませんし、余事記載となります。
なので例えば「本件で甲は~という行為を行い、Vが死亡しているが、甲の行為とVの死亡との間には~の~という行為が介在している。そこで、甲に殺人罪が認められるか。因果関係の有無が問題となる。」という問題提起をし、その点についての論述を終えたら、「以上から、甲の行為とVの死亡との間に因果関係が認められるため、殺人罪の客観的構成要件に該当し、故意も認められるので、殺人罪の構成要件に該当する。
そして、本件では違法性や責任を阻却する事情も伺われないため、甲にはVに対する殺人罪が成立する。」と書けば十分です。
10 最後に
かなり長々と書いてしまいましたが、要は、構成要件該当性・違法性阻却事由の有無・責任阻却事由の有無という点を検討して、問題となるところだけを厚く書けばよいということです。
刑法は、比較的早く答案が書けるようになる科目ですが、それは検討することがはっきりしているからだと思います。なので、まずは何を検討すればよいかという点を把握することから始めましょう。
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