司法試験・予備試験の論文における事実評価の基本

司法試験・予備試験

今回は事実評価の仕方について、ようやく自分の中で言語化できるようになったので、紹介していこうと思います。

事実評価の仕方については、最も学生から質問の多い事項です。

この記事を読んで、少しでも適切に事実評価が出来るようになれば嬉しいです。

事例設定

抽象的な説明をしても、なかなか伝わりませんし、「それはわかってるんだけど、上手くいかないんだよ!」となってしまうと思いますので、すごく簡単な事例を使って、説明していこうと思います。

Aは、Vに対して、刃渡り25センチの包丁の刃先をVに向けて、「金を出せ。」と言った。この場合、Aに強盗罪が成立するか。Aの発言が、Vを反抗抑圧状態にしているかが問題となる。

事実の摘示

今回は、事実が少ない方がわかりやすいと思いましたので、敢えて事実を一つとしました。

今回の事実は、「刃渡り25センチの包丁の刃先をVに向けて、金を出せと言ったこと」です。

単なる事実の摘示にとどまる答案

よく採点実感に採り上げられるダメな答案は、「刃渡り25センチの包丁の刃先をVに向けて、金を出せと言ったことから、Vは犯行を抑圧されているといえる。」といったものです。

これでは、単に問題文に示された事実を書き写して結論を出しているだけなので、評価されません。

事実に対する評価の仕方

「刃渡り25センチの包丁の刃先をVに向けて、金を出せと言ったこと」が今回の事実ですが、これはどのように評価したらいいでしょうか。

前提として、事実評価の論述は、規範に対して向かっていかなければなりません

そうすると、この事実が、Vの反抗を抑圧するものか否かという観点で評価しなければなりません。

その観点で、この事実を考えてみると、使えそうなファクターとしては、「刃渡り25センチの包丁の刃先をVに向けていること」、もっといえば、「刃渡り25センチの包丁」という凶器を用いていることであることは、察しがつくと思います。

仮に、刃渡り25センチの包丁で刺された場合、刃渡りが25センチもあるのですから、場合によっては、身体を貫通しかねません。仮に貫通しなかったとしても、人体の枢要部に刺さった場合には、命を落としかねません。

とすると、刃渡り25センチの包丁で刺された場合には、生命を落としかねないといえます。

つまり、25センチの包丁という凶器を用いているということは、「仮に刺された場合には、生命を落としかねない凶器を用いている。」という評価が可能です。

これを文章化すると、次のようになります。

本件で、Aは、刃渡り25センチの包丁を凶器として用いているが、刃渡りが25センチもある包丁であれば、仮に刺された場合には、場合によっては命を落としかねないといえる。とすれば、Aは極めて危険な凶器を用いて、Vに金銭を要求しているといえる。

こんな感じになります。少し長いですが、今回は、あくまでも、事実評価の仕方を紹介しておりますので、敢えて丁寧に論じました。

こういった文章をコンパクトに書けるのがいいと思いますが、最初はこれくらい長くてもいいと思います。

評価したら、それで終わり?

さて、上で今回の事例の事実を評価しました。果たして、これで結論が出るでしょうか。

「Aは極めて危険な凶器を用いて、Vに金銭を要求しているといえる。したがって、Vは反抗抑圧状態に陥っている。」

なんとなく論理が飛んでいると思った方は、鋭いです。ここで重要なのは、「なぜ極めて危険な凶器を用いていると反抗が抑圧されるのか。」ということです。なので、ここを埋めてあげる必要があります。

極めて危険な凶器を使用→「     」→反抗が抑圧されている。

こんなイメージです。

では、なぜ危険な凶器を用いていると、反抗をするのが困難になるのでしょうか。

当たり前のことですが、危険な凶器を用いているということは、場合によっては、自分がその凶器で攻撃を加えられる恐れがあるからです。

今回の場合、包丁の刃先はVに向いていますので、金を出せという要求を断ったり、Aに反抗したりすれば、包丁で刺されるかもしれないと考えるのは至極当然のことです。

なので、これを文章に加えてあげる必要があります。

本件で、Aは、刃渡り25センチの包丁を凶器として用いているが、刃渡りが25センチもある包丁であれば、仮に刺された場合には、場合によっては命を落としかねないといえる。とすれば、Aは極めて危険な凶器を用いて、Vに金銭を要求しているといえる

そして、Vからすれば、Aが上述のような危険な凶器を使用している以上、Aに反抗したり金銭の要求を断れば、AがVを包丁で刺すことは十分に考えられる。とすれば、Vは、反抗すれば包丁で刺される危険を認識している以上、Aに反抗することは困難といえる。

したがって、Vは反抗抑圧状態に陥っているといえる。

こんな感じでしょうか。青色部分が事実で、黄色部分が評価で、赤色部分が評価と結論をつなぐ意味付けといった感じです。

最後に

以上、事実の摘示からの思考の流れを説明し、文章化してきました。

事実の評価については、最初から何となく感覚的に出来る人と、そうでない人と別れるようです。そうでない人は、最初は上手くいかないかもしれません。

しかし、事実の評価も含めて、司法試験・予備試験の論文に特別な才能は必要なく、トレーニングすれば、しっかりとできるようになります。一朝一夕に出来るようになるものではありませんが、意識することがとても重要です。

この記事を参考に、少しでも事実の評価についてのイメージを持てる方がいたら、とても嬉しいです。

この記事を書いた人
ナオ

平成25年度の予備試験に合格。平成26年度の司法試験に合格。平成28年に弁護士登録。

都内で弁護士として実務に携わりながら、某大学法学部で司法試験、予備試験志望の学生のゼミで指導員をするとともに、司法試験予備校の論文答案添削など、司法試験の受験指導に積極的に取り組むサッカー大好き弁護士です。

個別受験指導もしています。

Twitter(https://twitter.com/nao_izumiya)

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