司法試験対策:良い論文答案と悪い論文答案

司法試験・予備試験
Free-Photos / Pixabay

司法試験や予備試験において、正解が決まっている短答式と違い、絶対的な正解が無い論文対策をどうすればよいのか悩んでいる受験生も多いのではないでしょうか。

この記事では、これまで3,000通以上の論文答案を採点してきた私が考える、「良い論文答案とはどのようなものか」「悪い論文答案とはどのようなものか」についての判断基準を紹介します。

論文答案を採点するのは人間ですので、好みの部分というのはどうしても出てきてしまいます。そのため私と異なる意見を持つ人もいるでしょうが、それなりに妥当な評価基準になっていると思います。

良い論文答案ってどんな答案?

まずはどんなポイントが押さえられていれば良い論文答案なのかを紹介していきます。

当たり前のように思えることばかりだと思いますが、これがしっかりとできていない答案が意外と多いので、一度自分の答案をしっかりと見返してみるのもよいでしょう。

適切な論点選択

まず大切な点は、出題者が聞きたい論点を正確に理解し、それを正確に表現することができているかということです。

言い換えれば出題者の意図を正しく理解するということです。

当然これができていないと高得点にはなりません。

出題者には出題意図があり、採点は基本的にそれに基づいて行われますので、出題者が意図しない論点についてどれだけ厚く論じたとしても得点にはつながりにくいです。

採点をしていると「出題者が論じて欲しい論点」ではなく「自分が論じたい論点」について論じてしまう人をよく見かけます。これでは良い論文答案にはなりません。

論点の理解度

適切な論点を読み取ったうえで、その論点についての理解度を表現することが大切です。

これを実現するためのベースはインプットの勉強量です。

ここでのポイントは、ただ単に論点が何かを知っていて理由と結論を暗記していればよいというわけではなく、なぜその論点が論点なのかということもしっかりと把握しておくということです。

そこを捉えられていないと応用が効かず、規範定立や当てはめのところで説得力に欠けることになってしまいますので、論点を勉強するときには「そもそもなぜ論点なのか」ということも意識しましょう。

その論点を論じる実益を端的に論じられていること

上述した「論点の理解度」にも関わってくることですが、問題文を読んで、どの論点について問われているかについて分かったとしても、すぐに飛びついて論点について書き始めてはいけません。

問題文の具体的な事案から、論点という抽象論の橋渡しとして、「なぜその論点を論じるのか」という、「その論点を論じる実益」をしっかりと明記しましょう。

問題文というのは具体的で、法律論というのは一般的・抽象的なものなので、急に抽象的な論点について論じはじめてしまうと、論理が飛躍してしまいます。

それほど多くの文字数を割く必要はありませんが、具体的な事案から「なぜそれを論じなければならないのか」ということをしっかり示して、具体から抽象へうまくつなげるように意識しましょう。

採点する側からすると、この橋渡しがうまくできてないと、論証パターンの貼り付け答案に見えてしまいやすいです。

ほとんどの人が大なり小なり、論証のパターン化や、それに準じた準備をして試験に臨むので、「あ!この論点だ!」と気づくとすぐに論証をはじめたくなるのが人情ですが、ここでしっかりと問題文の事案と論証を結びつけることが大事にすると差がつきます。

これだけではなかなか具体的なイメージが沸かないと思いますので、実際に例題を使って具体例を紹介してみます。

具体例

甲は、クロロホルムを吸引させてVを失神させた上(第1行為)、自動車ごと海中に転落させて、Vを溺死させる(第2行為)計画をしたが、実際は、クロロホルムを吸引させる行為によりVが死亡していた。

例えばこのような早すぎた構成要件の実現について論じるときを考えてみます。

甲にV死亡の結果を帰責できるか。第1行為に実行の着手が認められるかが問題となる。

これだと前半と後半の間にやや飛躍がありますよね。

そこを丁寧に書いてみるとこのような感じになります。

甲は、第2行為でVを殺害する意図であったが、実際は第1行為の時点でVは死亡していた。とすると、第1行為の時点では殺人の故意を有していないため、過失致死罪にとどまるとも思える。

もっとも、甲は、第1行為第2行為を行うことにより、Vを殺害しようとしていることから、第1行為の時点で、殺人の実行の着手(43条本文)が認められれば、第1行為について殺人の故意が認められる。そこで、第1行為の時点で殺人の実行の着手が認められるかが問題となる。

ここまで書ければ採点する側としても、「この人はわかっているな」と感じる可能性が高いですよね。

字数や時間などの関係でここまで書けないにしても、

本件で甲は、第2行為によりVを殺害しようとしているところ、第1行為によって死の結果が生じている。

そして、第1行為の時点では殺人の故意を有していないものの、殺人の実行の着手が認められれば、第1行為の時点で殺人の故意を認めることができることから、第1行為の時点で殺人の実行の着手が認められるかが問題となる。

最低でもこのくらいは書きたいところです。

当てはめの充実度

さて、問題提起において問題の所在を押さえ、その問題の所在に対する法的見解を述べて、規範が導き出されて、その規範を問題文の事案に「当てはめ」て結論を出すというのが論文の基本的な流れですが、この当てはめにもいくつかポイントがありますので、紹介していきます。

単に事実の摘示に終始せずに評価・意味づけまでできているか。

まず、単に事実を摘示するだけで終わらず、その事実をどう評価するのか、そしてその評価は自分が立てた規範との関係でどのような意味を持っているかという所まで踏み込んで論じられると説得力があります。

これも具体例を挙げて説明してみます。

甲(20歳,男性)は生活に困窮していたところ、甲は,V(40歳,男性)が,一人暮らしの自宅において,数百万円の現金を保管していることを知った。そこで、甲は,V方に押し入り、現金を手に入れようと計画し、果物ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル。以下「ナイフ」という。)を準備した。

甲は,某日午前2時ころ,事前に準備したナイフ等を持ち、施錠されていなかった窓からV方に入った。甲は,Vが寝ている部屋(以下「寝室」という。)に行き,ちょうど物音に気付いて起き上がったVに対し,準備したナイフをその顔面付近に突き付け,「金はどこにある。怪我をしたくなければ金の在り処を言え。」と言った。これに対し,Vが現金の保管場所を教えなかったため,乙は,Vを痛めつけてその場所を聞き出そうと考え,Vの顔面を数回蹴り,さらに,Vの右足のふくらはぎ(以下「右ふくらはぎ」という。)をナイフで1回刺した。Vは,乙からそのような暴行を受け,「言うとおりにしないと,更にひどい暴行を受けるかもしれない。」と考えて強い恐怖心を抱き,乙に対し,「金はそこのタンスの中にあります。」と言った。

この事例について論じるときに、単に事実を摘示するだけになってしまうとこのような感じになります。

強盗罪における「暴行又は脅迫」とは、客観的に相手方の反抗を抑圧する程度のものが必要である。

甲はナイフをVの顔面付近に突き付け、「金はどこにある。怪我をしたくなければ金の在り処を言え。」と言っているので「脅迫」にあたる。

その後、甲はVの右ふくらはぎをナイフで1回刺しているので、「暴行」にあたる。

これでは「ナイフをその顔面付近に突き付け」という事実を摘示しているだけで、その事実を評価できていません。

これをしっかりと評価・意味づけするとこのようになります。

強盗罪における「暴行又は脅迫」とは、客観的に相手方の反抗を抑圧する程度のものが必要である。

自宅寝室で就寝後という無防備な状態で、突然、自分よりも若く、体力面で勝るであろう甲に、刃体の長さ約10センチメートルと殺傷能力の高いナイフを用いて脅迫的言辞を述べられるという状況においては、甲の意に反する行動をとれば、ナイフにより傷つけられるであろうことは容易に想像できる。そして、甲は、ナイフをVの顔面付近に突き付けているところ、顔面付近は身体の枢要部であること、また、ナイフは鋭利な凶器であるから、その性質上、容易に身体への侵襲を許し、かつ、かかる侵襲は生命、身体への重大な影響を及ぼす可能性が高い。よって、甲の行為は客観的に反抗を抑圧するに足りる程度の「脅迫」にあたる。

また、上記行動のみではVが金庫の場所を教えなかったため、甲は、Vの顔面を数回蹴り、Vの右ふくらはぎをナイフで一回刺しているところ、かかる行為により、Vは「言う通りにしないと、さらにひどい暴行を受けるかもしれない」と、甲に反抗してこれ以上の現金の保管場所を隠すことは困難であるとの強い恐怖心を抱いているため、かかる行為は反抗を抑圧する程度の「暴行」にあたる。

字数や時間との兼ね合いでここまで丁寧に書くべきかどうかは問題によって変わってきますが、事実を摘示するだけにならないようにするとはどういうものかイメージしてもらえたのではないでしょうか。

反対の結論に立つ人の主張に配慮できているか

さらに説得力を高めるためには、反論を予測して、なぜそう考えないのかということを論じておくということです。

例えばある事実に対して、Aという評価とBという評価が出来る場合に、「なぜ自分がBという評価を採用しないのか」あるいは、「なぜAという評価の方がBという評価に比べて説得的・合理的なのか」ということを論じることで説得力が高まります。

論文答案の採点をしていると、この点がおろそかになっているせいで、「なぜ?」という疑問が生じやすくなっている答案を見かけることがよくあります。

もちろんこれらの点が十分ではなかったとしても、最終的に説得力のある当てはめができていればそれでよいのですが、いずれにせよ当てはめの説得力ということは意識しましょう。

メリハリのきいた答案か

これまで紹介してきたように、出題者が論じて欲しい論点を問題文から読み取り、論証し、規範を立てて、問題文の事実を評価し、当てはめて結論を出すというのが、基本的な良い論文答案を書く方法です。

しかし、司法試験や予備試験レベルの問題ともなれば、たくさんの論点を処理しなければならない問題が出ますので、時間と紙面の制約上、すべての論点を全力で書くわけにはいきません。

したがって、多くの論点を、メインとなる論点、前提となる論点、結果が明白な論点といった具合に分類し、それぞれに割くべきボリュームを検討して、メリハリをきかせることが必要です。

これができていなくて、もっとも大切な論点と結果が明白な論点が同じくらいのボリュームで書かれているということになると、論文として重点を置いている部分が不明瞭になりますし、問題の所在をあまり理解していないと評価されてしまうリスクもあります。

メリハリのきいた答案を書くためには、構成段階からどこにどの程度のボリュームを割くべきかということを考えなくてはいけません。

もしどの程度のボリューム配分にすべきか迷ったときには、問題文中でその論点のために用意された事案のボリュームなどを参考に構成してみるというのも手です。

視覚的な読みやすさ

答案を採点していると、視覚的な読みやすさをあまり意識していないな、という論文をけっこう見ることがあります。

でも読み手からすれば、意外とその答案に対する印象を大きく左右してしまう点です。

まずぱっと見たときに文字が雑だと第一印象は悪いです。

たしかに司法試験受験生をしていると、いわゆる達筆な人が書いた、雑に見えてもしっかり読みやすい答案に触れる機会があって、そういったものに憧れることがありますし、ややなぐり書きのような答案を、熟練した感じがしてカッコいいと思うことがあるかもしれません。

しかし文字がすごく上手で達筆な人ならばともかく、明らかに雑に書かれていて読みにくいような答案は単純に判読が難しいですし、印象も悪いので、字が下手だったとしても時間内に書き終えることができる速度の範囲内で、可能な限り丁寧に書くようにしましょう。

もし判読できないレベルでなぐり書きをしないと時間が足りないという方は、答案構成に時間をかけ過ぎの可能性大です。

また、ナンバリングというのも意外と読みやすさに影響があります。

適切にナンバリングがされていると、どこに何が書いてあるか読み手としても予測して読んでいけますので、読みやすいです。

少し視点を変えて考えてみると、ナンバリングの方法に悩むような答案ですと、おそらく論理構成もあまり理解しやすいものになっていない可能性が高いのではないでしょうか。

まとめ

ここまで良い答案としての要素を色々と紹介してきましたが、これらの大前提として「設問に答えている」ということがないと良い答案とは言えません。

当たり前のことだと思われる人も多いでしょうが、設問で問われていないことまで論じている答案、設問に的確に答えていない答案というのは意外と多いものです。

まず大前提として「設問に答える」ということは絶対に忘れないようにしましょう。

また、ここで紹介したポイントの中で、はじめに紹介した論点に関する部分というのは、いわゆる法律についてのインプットの部分の問題で、当てはめ以降というのは論文答案のための技術です。

基本的な法律に関する知識というのがなければ、どれだけ技術があったとしても良い論文答案は書けませんので、まずは合格レベルの法律知識をつけるということを最優先に目指しましょう。

悪い論文答案ってどんな答案?

さて、ここまで良い論文答案というのはどのようなものかを紹介してきましたが、悪い答案というのはこれらができていない答案です。

ただこれで話が終わってしまうとなかなかイメージしにくいところもあるかもしれませんので、某予備校で使用されている添削シートに記載されている減点ポイントを紹介します。

  1. 問題文の事情を正確に把握していない。
  2. 前後で論理矛盾している。
  3. 体系的理解に誤りがある。
  4. 一文が極端に長い、文字が極端に読みづらい等、答案の記述が著しく乱れている。

これらをみてみると、良い論文答案と悪い論文答案は鏡写しのようなものということがよくわかるのではないでしょうか。

過去に自分が書いた答案がこれらに当てはまっていないか、しっかりと読み返してみるのも非常に良い勉強になると思います。

おわりに

ここまで全体を通じて「当たり前のこと」が書かれているように感じたかもしれません。

しかし、少し厳しい言い方になりますが、その当たり前のことができてないから合格できていないんです。

私自身もそうでしたが、受験生が必死で努力して勉強している中で、「必死で勉強したのにできていない自分」と向き合うのはメチャクチャしんどいです。

しかし思った点数が出なかった答案にこそ自分の改善点があるものです。

「採点した人はわかっていない」と言って逃げるのではなく、点数のでなかった答案としっかり向き合い、なぜ点数が出なかったのか、自分には何ができていて、何ができていないのかといったことをしっかりと見つめ直していくことが、合格への最短距離ではないでしょうか。

この記事を書いた人
ナオ

平成25年度の予備試験に合格。平成26年度の司法試験に合格。平成28年に弁護士登録。

都内で弁護士として実務に携わりながら、某大学法学部で司法試験、予備試験志望の学生のゼミで指導員をするとともに、司法試験予備校の論文答案添削など、司法試験の受験指導に積極的に取り組むサッカー大好き弁護士です。

個別受験指導もしています。

Twitter(https://twitter.com/nao_izumiya)

ナオをフォローする
司法試験・予備試験
ナオをフォローする

コメント

タイトルとURLをコピーしました