今まで数えきれないほど、司法試験の論文答案を添削してきましたが、その中でも結構多いのが、「バランス」が悪い答案です。
ここでの「バランス」というのは、厚く論じるべき点なのにあっさりと論じ過ぎていないか、あるいは、端的に論じるべき点を長々と論じていないかといった、その問題における論点の重要性と論述内容の濃さ、文量のバランスのことです。
このような論文答案は、配点と答案上の論述の多さが対応しないがために、低評価になってしまう恐れがありますので、答案を作成するにあたっては、メリハリをつけた、バランスが取れているものになっている必要があります。
なぜバランスが重要なのか
当たり前のことですが、司法試験にしても予備試験にしても、「時間制限」と「紙面制限」がありますので、論じなければならないことを全部フルスケールで書くと、この制限によって、書き切れないという事態が生じます。
だからこそ、メリハリをつけて重要な点に時間と紙面を多く割き、重要でない点については時間や紙面を割きすぎず、バランスの良い論文答案を書くことが重要なのです。
バランスの取り方
では、どのようにしてメリハリをつけてバランスを取ればいいか。
ポイントはいくつかありますが、以下の点を意識すると、どこにどの程度紙面を割くのが適切か、バランスが取りやすいと思います。
- 問題文中で示されている、論点に関する事情の多さ
- 結論が明らかな(左右されない)論点か否か
- 前提となる論点か否か
- 配点比率が明示されている場合は、その配点比率に沿うように文量を決める。
1.については、問題文に特定の論点に関する事情が多い場合、それは試験委員がその事情を使ってほしいからその論点に関する事情を多く用意しているわけで、そこは厚く書かないといけませんよね。
2.3.については、結論が事案を見て明らかな場合に、それを長々と論じるのは無駄でしょう。
例えば、会社法の有利発行の事案で、明らかに低い金額での払込金額が設定されている場合に、有利発行の論述を長々としても、有利発行であることは明らかなわけですから、端的に有利発行に当たることを論じれば問題ありません。
また、3.についても、前提となる論点を長々と書いたら、本質的な論点に紙面を割けなくなってしまいます。
例えば、刑法で、窃盗目的で家に立ち入っていた場合に、「侵入」の意義を保護法益から遡って丁寧に論じる実益はありません。この場合も、「~なので、Vの意思に反する立入りであるから住居侵入罪が成立する。」といったように、端的に論じれば足ります。
最後に4.について、民事系などでは、設問間の配点比率が問題文に明示されていることがあります。
この配点比率は、当然のことですが、どこにどの程度の配点が振られているのかを教えてくれるものなので、答案全体のバランスを考えるにあたっては、格好の材料になります。
なので、この配点比率に沿って、割く紙面の分量を決めると、配点比率との関係でバランスの良い答案となるでしょう。
バランスは答案構成段階で取っておく
以上のメリハリの付け方で、どこにどの程度紙面を割くかを決める作業は答案構成の段階でするようにし、それを答案構成用紙にメモするようにしましょう。
そうすることで、答案構成を見れば、例えば「設問1は2枚くらいで収めないといけないな」といったことがわかります。そうすると、「2枚で収めないといけないから、この論点はこれくらいで」といったそれぞれに割くべき紙面が決まることになります。
自分がどれくらい書けるのかを把握しよう
以上が、答案のメリハリの付け方ですが、バランスの良い答案を作成するにあたっては、「自分がどの程度の分量を書けるのか」ということも重要です。
例えば、さきほど「配点割合に沿った文量で」というお話をしましたが、このときの文量というのは、最終的に論文答案が6枚になる人と8枚になる人とでは、最終的に各論述に割く文量に違いが生じてきます。
なので、自分がどれくらい書けるのかを把握した上で、どこにどの程度紙面を割くかを決めることが求められるので、自分がどれくらい書けるのかがわかっていることは重要なのです。
最後は場数
以上、答案のバランスについて話してきましたが、実際には、しっかりと時間を図って、答案を書くという作業をどれだけこなしたかが重要になってきます。特に、時間を計って解くということが重要です。
なぜなら、最初に申し上げた通り、メリハリをつける必要性は、「制限」があるから生じます。
なので、時間無制限で書いてしまうと、時間的「制限」がなくなりますので、「時間内に構成しなければならない」という制限がなくなってしまいます。
また、自分がどれくらいの文量を書けるかは、あくまでも「時間内に」どれくらい書けるかなので、制限時間を設けないと、それがわかりません。
多くの答案を書くことで、自分なりにメリハリの付け方、答案のバランスのとり方はなんとなくわかってきます。だからこそ、毎回の起案の機会を無駄にしないようにしましょう!
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