司法試験や予備試験の受験指導をしていると、よく「当てはめ(※)の仕方がわからない。どうすれば適切に当てはめが出来るようになるのか」、という質問を受けることが多いです。
※この記事では「具体的検討」のことを便宜上「当てはめ」と言います。
当てはめの際の事実評価の基本については以前『司法試験・予備試験の論文における事実評価の基本』でも説明していますので、この部分が苦手な方はそちらも合わせて読んでみてください。
論文答案での「当てはめ」は、結論から決めてしまってよい
当てはめの仕方がわからないという方から多く聞くのは、「どの事実をどうピックアップして当てはめればいいのか、答案を書いている途中で混乱してしまう」とか、「規範を立てて、いざ事実を当てはめてみたら、結論が変わってしまって、前段部分からの論理構造が破綻する」といったことです。
これが起こってしまう大きな原因は、一つ一つの事実を中立的に、その事実単体としてしか捉えていないことだと思っております。
もう少し踏み込んで言えば、「事実をもとに一から論理を組み立てていって結論を出さなければならない」という考えにとらわれているように思います。
もちろん、完成する答案は「事実をもとに一から論理を組み立てていって結論が出された答案」になります。ただ、事案を検討するにあたってのアプローチは、必ずしもそうである必要はありません。
私のところに来る「当てはめが苦手」という方の中には、そのような帰納法的なアプローチしかできない、してはいけないと考えている人が多いというのが私の印象です。
なのでそういった方には「まずは結論を決めよう」とアドバイスしています。
例えば、問題で適法か違法か聞かれていた場合、問題文を読んで、結論を決めます。
そして、結論として、適法と決めたのであれば、「問題文の事実をどのように使って論理を組み立てれば、説得的に適法という結論を導けるか」を考えます。
このように、目的地を設定した上で、そこに向かって思考していくことで、少なくとも論理の破綻は防止できますし、事実の評価もしやすいはずです。
論文試験の問題中の事実を3種類に分けてみる
司法試験や予備試験の問題文に示されている事実は、上の例でいうと、
- 適法に働く事実
- 違法に働く事実
- どちらにでも働く事実
この3種類しかありません。
上の例では、結論を適法に決めましたので、あとはこの3種類の事実を使って、順序だてて説明していけばいいのです。
結論が適法なのであれば、1.の事実は必ず使いますよね。
他方で2.の事実は自分の結論にとっては不都合な事実ですが、これを無視すると議論が一方的になってしまうので、2.の事実についてもしっかりフォローする必要があります。
また、3.については、どちらにでも働き得る事実ですから、使うときには説得的に適法の方向に倒していく必要があります。
「確かに~しかし」構文の罠
2.の事実のフォロー、3.の事実を適法の方向に倒す仕方として、「確かに~しかし」構文があると思います。
この構文は、非常に有用なのですが、使い方を間違えると、マイナスな評価になってしまうおそれがあります。
代表的な例を紹介しますと、
ⅰ「しかし」で覆せていない
ⅱ「確かに」部分の記述と、「しかし」部分の記述が整合していない
こういった文章は、答案を添削していると非常によく出会いますので、「確かに~しかし」構文を使うときは、十分注意して使ってください。
まとめ
このように考えると、ある程度機械的に当てはめ作業が出来ると思います。
まず、結論を決めて、その結論に沿う事実、沿わない事実、どちらにでも倒せる事実をカテゴライズして、後はパズルのように組み立てていけば、大枠は完成します。
あとは、各論述において、上で紹介した「事実評価の基本」にしたがって論じていけば、各論述の説得力も出てくると思います。
この型の流れに沿って、反復してトレーニングをすれば、「当てはめ」への苦手意識が減っていくはずです。
そうやってある程度「当てはめ」の型ができてしまえば、そこから自分なりの方法に変えていけばいいんです。
今回の方法論は、当てはめが苦手な人がそれを克服するための一手段にすぎませんので、得意な人にははまらない部分もあるかもしれませんし、他の克服方法もあるかもしれませんが、当てはめが苦手な皆さんの参考になれば幸いです。
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